川の幸と山の幸のハーモニーを楽しめる一丸御膳には、山里のご馳走がいっぱいです。旬の美味しさを楽しんで頂けるように素材を厳選し丁寧に下ごしらえしています。自家製のお味噌で頂くキノコと猪肉のお鍋は臭みがなくて食べやすく、栄養がいっぱいで身体を芯から温めてくれます。
天川村川合の交差点から洞川方面へ。くねくねと曲がる峠道を登り、トンネルを越え、山上川沿いに少し走ると洞川温泉入口です。「一丸旅館」さんへは、そのまま真っ直ぐ龍泉寺方面へ進みます。観光案内所前を過ぎ、街中を少し走ると左手に木造2階建ての「一丸旅館」さんの姿が見えてきます。
洞川は、古くから大峯山へ参拝に登られる行者さんの宿場として開けた場所として知られ、今も行者さんが泊まる宿がたくさんあります。
一丸旅館さんもその中の一軒として多くの行者さんを迎えてこられましたが、現在は、四季折々の自然を楽しむ観光の方が多く利用されています。
出迎えて下さったのは、笑顔が優しい3代目のご主人と女将さん。玄関を入ると、いかにも行者の宿、といったしつらえが目に入り、木造の階段や廊下・柱などに心が和みます。純和風の部屋には、現在の生活の中では見ることが少なくなってしまった調度品が飾られています。
とてもゆったりとした客室は、それぞれ間取りや見える景色に特徴があり、毎回同じお好みの客室を選ばれる常連の方も多いそうです。
床の間の掛け軸、襖絵、長押(なげし)の額などには時代を経た美しさがあり、ある年代の方にとっては懐かしく、若い方の目には新鮮に映るのではないでしょうか。
木造の窓枠や、無垢の木の建具・廊下の輝き。そして少し入り組んだ館内には、何とも言えない旅情を感じます。
一丸旅館さんで出しておられる「一丸満天御膳」について女将さんに伺うと、「洞川には美味しいものがいろいろありますが、それを少しずつでもたくさんの種類を召し上がって頂きたいと思っています。」と語って下さいました。素材は、自家野菜や洞川や天川のもの。旬によってメニューを工夫され、お味噌なども手づくりされているとのことでした。
天川の綺麗な水で育った新鮮な川魚の焼き物は、季節によって鮎またはあまごに変わるそうです。
美しいオレンジ色のお刺身は、「鱒(マス)の洗い」。キュッと締まった身の中にマスのやさしい甘味と脂が感じられます。
湯気の上がるお鍋では、地元洞川の猟師さんの猪肉と地元の野菜やキノコが、自家製のお味噌と共に良いハーモニーを生み出しています。うまみの沁みだしたお出汁に天川で作られた葛うどんを煮込み、味わって下さい。
「お鍋に残ったお出汁がまた美味しいんですよ。これだけでご飯が何倍も食べられるぐらい・・・」と女将さんは、ご主人と顔を見合わせ楽しそうに語られます。
手前のお皿に乗るのは、天川の「鹿刺し」です。しょうが醬油で頂きます。山里ならではの鹿肉。なかなか他所では食べることのできない逸品です。
その他、旬の野菜を使ったお料理が並びます。野菜は、先代のご主人が近くの畑で作られたものや、洞川産のものを使っておられます。
「洞川の寒冷な気候は、お野菜を美味しく育ててくれるようで、お客さんにも野菜の味が違うと良く言われます。」と語られる女将さんですが、それに加えて、「美味しい野菜の旬を見極め、収穫後新鮮な内に調理することも心掛けています。」と言われる言葉からは、「一丸旅館」のお料理の美味しさの秘密を知ったような気がしました。
3月下旬におうかがいしましたので、旬野菜のお鉢は「わけぎとあげのぬた」「レンコンと里芋のつくねあんかけ」「山芋のすりおろし」「おつけもの」でした。
その他、食前酒の自家製梅酒。洞川のお豆腐、手作り葛餅も並んでいます。
「一丸満天御膳」は、宿泊時の夕食ですので、朝食のご紹介はありませんが、おすすめを伺うと「フキの佃煮」とのことでした。
春に1年分のフキを摘み、それを保存のために塩で押し、1ヶ月ごとに大鍋で炊いてお客さんに出されているそうです。
フキはアクの強い植物ですので、きっと手を真っ黒にされながら、一生懸命摘んでおられるのだろうなとつい想像してしまいました。
朝食の「フキの佃煮」をどうぞお楽しみに!
日々のお客さんのおもてなしで忙しい中、旬の素材で手作りすることに手間暇を惜しまず、楽しんでおられる様子の女将さん。そして、宿の事を丁寧に語られるご主人さん。若いおふたりが営まれる一丸旅館さんは、3月の澄んだ青空ようにやさしい雰囲気が満ちているお宿でした。
ぜひ一度、洞川・一丸旅館を訪れてみて下さい。